おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

煙草(なつくさ)やつわものどもが煙のあと 番外「突破」編

NHKの「映像の世紀 バタフライ・エフェクト」を楽しみにして観ています。

バタフライ・エフェクト」とは、アメリカの気象学者、エドワード・ローレンツが1972年に行った講演タイトル「redictability: Does the Flap of a Butterfly's Wings in Brazil Set Off a Tornado in Texas?」(予測可能性:ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか?)からとられた言葉で、日本のことわざで言い換えれば、「風が吹けば桶屋が儲かる」と言えるでしょうか。

番組の趣旨としては、「蝶の羽ばたきのような、ひとりひとりのささやかな営みが、いかに連鎖し、世界を動かしていくのか?」をテーマに歴史の流れを紹介しています。

前置きが長くなってしまいましたが、明治の煙草宣伝合戦で、岩谷松平が赤い馬車から声をかけたことで、光永星郎(みつなが ほしお)が広告の重要性を知り「日本広告株式会社」(後の電通)を設立し、花札製造業の山内房治郎が、知り合いの村井吉兵衛のタバコ販売ルートを使って国産のトランプを普及させ、「任天堂」となったことはすでにご紹介しました。

村井商会のタバコカード 花札とトランプの合体

これらの稿を書いている時、頭の中で「映像の世紀」のテーマ曲が巡っていました。(山田孝之さんのナレーションも・・)

ここでは上の二つの例以外に、明治のタバコ宣伝合戦が一つの企業の飛躍的成長をもたらした話をご紹介します。

明治十年代、大蔵省印刷局(現 独立行政法人国立印刷局)で、技術指導にあたっていた御雇外国人のエドアルド・キヨッソーネは日本の紙幣印刷技術の向上に大きな功績を残していました。彼の本職は版画家・画家であり、よく知られる西郷隆盛明治天皇肖像画は彼の手によるものです。

その下で最新の印刷技術を学んでいた印刷技術者、木村延吉と降矢銀次郎の二人は、当時の最先端の印刷技術「エルヘート凸版法」(別名:銅凸版印刷法)を基礎に、日本の印刷業界のさらなる発展を考えていました。紙幣に使用されるような細密な印刷が可能な技術でしたので、有価証券印刷など高級印刷の需要を見込んでいましたが、この時期の不景気で需要がわずかで、なかなか軌道に乗せるに至りませんでした。

その時代に巻き起こったのがタバコ宣伝競争。アメリカ製の最新印刷機を導入した村井商会に対し、二人は岩谷商会に「エルヘート凸版法」を使ったタバコパッケージやポスターの印刷を提案します。

ポスターやタバコ外箱に「エルヘート凸版法」が使われるようになりました

岩谷商会は「エルヘート凸版法」の印刷受注先(上得意)となり、軌道に乗った明治三十三年(1900)「凸版印刷合資会社」が誕生しました。名前でお判りの通り、現在の「凸版印刷株式会社(TOPPAN)」です。

本店は台東区(当時の場所)ですが、本社事務所は文京区水道にあります

タバコ宣伝合戦が、日本の近代印刷の苦境を「突破」したと言っていいでしょう。

以上タバコ宣伝合戦の「バタフライ・エフェクト」でした。