おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

線路は続くよ東京までも4

移転先の麻布に煉瓦造りの兵舎を新築する費用は150万円が見込まれていました。この年度の日本全体の歳入額は9669万円。陸軍の予算の1割以上の金額でした。そのために丸の内の土地を民間に払い下げようというのでした。

当時の財閥、財界人に払い下げに関する打診がなされます。このとき岩崎弥之助がトップの三菱財閥と、財界人のトップであった渋沢栄一らによる駆け引きが繰り広げられました。

三菱⇔渋沢の因縁はこの数年前に遡ります。昨年の大河ドラマ「青天を衝け」でも、吉沢亮さん演じる渋沢が、中村芝翫さん演じる岩崎弥太郎との間で繰り広げた「共同運輸会社」と「三菱商会」との海運事業の値下げ合戦です。岩崎弥之助は弥太郎の死後、三菱商会を受け継ぎ、この戦いに会社合併という形で手打ちを行った人物です。

台東区池之端の旧岩崎邸(2019撮影) 三菱財閥第三代総帥、岩崎久弥の邸宅でした

因縁の余波もあったか、話し合いは物別れに終わります。そのためこれらの土地の売却は16の区画に分けられ、区画ごとに入札を募る形式で行われました。半分以上の区画で岩崎弥之助代理人が最高価格で入札していましたが、いずれも政府の示した最低入札額に達していませんでした。入札は不調に終わったのです。

結局、最終的に陸軍省は独自に払下げ業者を選定し、一括して買受を依頼することにしました。白羽の矢が立ったのは三菱財閥でした。岩崎弥之助は「ご奉公の意味をもってお引き受けしましょう」と政府の言値128万円でこれらの土地を一括し買い上げたのです。

このとき、弥之助の背中を押したのは、三菱の経営戦略を担った荘田平五郎でした。入札の時、荘田は造船業の視察でロンドンにいましたが、ホテルで丸の内の入札が不調に終わったニュースを知ると、日本の弥之助に向け電報を打ちます。「丸の内、買い取らるべし」と。荘田の胸中にあった勝算とは何だったのでしょうか?

その話は次回に。