おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

藁う松には虫来る

雪吊りと共に、この時期の松には腹巻きのように松の幹に藁が巻かれているのが見られます。なんとなく腹巻きと語感が似ているので「藁巻き」と呼んでしまいます。これには「菰巻き」(こもまき)という正式な名前があり、元々は水辺に群生するイネ科の「マコモを編んで作ったのでこの名前があるようです。しかし今では藁を使うのが一般的なので、「藁巻き」と呼んでも違和感なく通じるでしょう。

松の幹に巻かれた「菰巻き」 腹巻のように見えます(芝離宮恩賜庭園)

松の樹に施される時期が雪吊りと同じく晩秋で、腹巻きを思わせることから、松の防寒対策として行われているものなのかと思いきや、「菰巻き」大名庭園などで行われてきた害虫駆除の方法でした。
松の樹につく害虫というと、真っ先に「毛虫」が連想されます。子供の頃、手首のあたりを刺されて痛痒く腫れた思い出があり、マツケムシは今でも苦手なのですが、このマツケムシ、「マツカレハ」という蛾の幼虫で、冬の間、地上の落葉の中で冬を越す習性があるとのこと。それと同じ環境を幹に藁を巻いて作り出し、毛虫をその中におびき寄せ、集まったところを藁ごと焼いてしまいます。棲家ごと処分するところ、「ゴキブリホイホイ」のようなイメージでしょうか。
が、近年この方法が毛虫駆除には逆効果である、という実験結果が明らかとなっています。その理由は、毛虫だけでなく、毛虫を捕食する天敵も一緒に駆除してしまうから。それも同数レベルならともかく、天敵のクモやヤニサシガメが大半を占めてしまう、という結果で、天敵の側にダメージが大きいのです。宮内庁管轄の皇居(江戸城)と京都御所でも40数年前から「菰巻き」は行っていないそうです。かつての大名庭園を庭園・公園として管理する東京都では、現在でも「菰巻き」が続けられています。焼却する前に毛虫と天敵を選別するような配慮が行われていればいいのですが・・。

清澄庭園の「菰巻き」

大名庭園で行われてきた、ということは江戸時代に庭園とその樹木などを管理・整備していた庭師さんの工夫だったのでしょう。代々庭園で愛でられた松の樹を枯らしてしまっては責任問題、実際に毛虫は捕獲できる(益虫も捕獲してしまうのですが)ので「やってる感」はありますし、何となく風情もあることから、江戸の庭園において広まっていったのではないでしょうか。

もう少し「菰巻き」の話を続けます。