苔丸は受け取った弓を、庭の隅の松に押し当てると軽々と弦を張ります。そうして鉄の矢をつがえたかと思うと、的には目もくれずに客と歓談中の別府に向けて狙いを定め、大声で叫びました。
九州諸国の官人たちよ、我を誰と思うか!いつか孤島に捨てられた百合若が、春の草木が生え変わるように戻ってまいったぞ!人の道をわきまえて我に味方するか、それとも踏み外して別府につくのか、どうだどうだ?

一瞬の静けさの後、居並ぶ武将・官人たちは「ははーっ」とかしこまると(大友諸卿、松浦党、一度にはらりと畏まり)、百合若につき従います。別府兄弟も呆然としながら「降参いたします」と手を合わせひれ伏して許しを請いますが、許せるはずもありません。先ほど自分に従った松浦党の手の者に別府太郎を縛り上げさせました。
お前の舌から出たたくらみで、私はこのようなつらい目に遭ったのだ。因果応報、お前もつらい目に遭わせてやる。
と、別府太郎の口の中に手を入れると、舌をつかんで引き出し、そのまま投げ捨てます。そうして首を斬り、その首は七日間晒されました。「主君の百合若様を陥れた当たり前の末路よ」筑紫の国の民は、晒された首を見て憎まない者はいません。
同席していた弟の次郎も同じ刑に処せられるところでしたが、「私はあの島で兄を止めようとしたのです」とその時のありさまを言上したところ、
それならば、お前の命だけは助けてやろう
と壱岐への流刑としました。
館でのひと騒動が終わると、百合若は筑紫国の役所へ移りました。隠れていた御台所はこの話を耳にして「これは夢ではなかろうか」と袂を顔に当てて涙をぬぐいながら百合若と再会します。続きは次回で。





