「どうせあたりゃしねえや」、とぼやきながら、懐から札を取り出し番号を眺めます。
「こっちが子の一三六五番で・・」、貼紙に目をやって、「こっちが子の一三六五番・・・」「あああ、当たった当たった~」
ここの当りに気づくまでの間のリアクションが演者の芸の見せどころで、そのうち客は
「ああ、寒気がしてきた・・なんで当たったら半分やる、なんて言っちまったんだ・・・あんなこと言わなきゃよかった」このままずらかろうにも、売った者がいないとくじを換金できないきまりなので、客は宿に戻ります。「帰りましたよ」
宿に戻ると主人のおかみさんが、「おかえりなさいませ、なんだかお顔の色がお悪いようで・・」「なんだか風邪を引いたようだ、すぐに布団を引いてくれ、二階で寝るから」と布団をかぶって寝てしまいます。
宿屋の主人も用事を済ませて、湯島天神にやってきます。客に売った札の番号の控えを取り出し、貼紙を眺めます。主人も客と同じようなリアクションで、あわてて宿に戻ります。「あーったたた・・」「どうしたんだいこの人は」「おお、お客さまはどうした、お客さまは・・」「なんか風邪ひいたとか言って、二階で寝てるよ」
夫婦のやり取りの後、主人は二階に上がって寝ている客を揺すって起こします。
「お客さま、おめでとうございます、千両富が当たりましたよ」
「なんだ、そんなことで寝てるところを起こす奴があるか」
「当たったら半分やるとおっしゃって・・」
「やるよ、やるからあっちいってなさい」
「いえ、今から下で祝いに一杯やりましょう」
「やだよそれっぽっちの金で、何が祝いだ、おや、下駄のまま上がってきやがって」
「申し訳ございません、うれしいもので、つい下駄のまま上がってきてしまって」
「いやだね貧乏人は・・あたしゃ貧乏人とは付き合いたくない・・」
「そんなこと言わないで起きてくださいな」と主人は客の布団をはがすと、
客は草履をはいたまま・・
湯島天神が舞台の「宿屋の富」を紹介しました。
次回は関東三天神の三つ目、関東最古の谷保天満宮を紹介します。