「わて、今宮から来ました」
「今宮、そらまた遠いとこから来たんやな、なんでまたそんな遠いとこから?」
解説すると「今宮」というのは、今宮戎神社のあるあたりです。「今宮村」ということからも大坂の市街地から見ると南のはずれ、といったところでしょうか。クロが不思議がるのも無理はありません。
病犬が言うには、四、五日何も食べておらず、おなかの空いいたとのこと。そこへ、どこかの丁稚さんが、買い食いした焼き芋の皮をほった(捨てた)のを食べては、次の皮がほられるのを待ってついていったところ、こんなところまで来てしまった、というのです。
「そうか、そんでお前、生まれは今宮か?」
「いえ、わたい生まれは船場でんねん」
「なに、船場、生まれ船場いうたらわしらと仲間やないかい、船場はどこや?」
「南本町ちょっと入ったところ、用水桶があったとこでんねん」
「用水桶?あったなぁ、そこに質屋がなかったか?」
「はぁ、角に質屋がおまして、わてそっから三件目の竹内さんていううちで生まれたんです」
「竹内さん?お前に兄弟はなかったか?」
「わたい、上に兄さんが二人いてはりましたんやけど、一番上の兄さんは幸せなお方で、鴻池さんとこにもらわれて行きはりましてん、で、二番目の兄さんは、おもてに出んなよいうて言われてたのに、おもてにパーっと飛び出して、大八車にバーンとはねられて、キャーンっていうたのがこの世の別れで・・」
その後一匹残ったぶち犬はそのまま飼ってもらっていたものの、悪い友達(犬)から盗み食いや拾い食いを覚え、それがやめられなくなり、そのうちに病を得て毛が抜けてしまったのでした。毛が抜けてからは丁稚たちも買うのを嫌がり、挙句の果ては自転車に載せられて遠出をしたついでに捨てられた、というのです。(「自転車」が出てくると時代は何時?と突っ込みたくなりますが、ここはスルーで)
病犬は、三匹の内のぶち犬、クロの弟でした。生き別れた弟との再会です。
この続きは次回に。