「これ、乗り物を用意せぇ」という鴻池の手代、佐兵衛の声がかかると立派な輿が運び込まれます。真ん中に緞子(どんす)のふかふかした座布団。昨日までは藁の上が定位置だったのが、いきなり座布団の上へ乗せられ、当事者(犬)は居心地悪そうにキョロキョロ見回しながらの状態で輿で運ばれていきます。こうして黒犬は鴻池にもらわれていきました。
この噺の肝は、捨犬が三匹であったこと。黒犬は大金持ちに貰われる幸運な境遇ですが、見方を変えればあとの白犬とブチの兄弟と離れ離れ、生き別れたわけですね。
さて、輿は大坂の街を進み今池の鴻池家へ。ぼんは犬を見るや「クロが帰ってきた」と大喜び。周りも胸をなでおろしますが、今度は病気などさせてはならないと大変な念の入れようです。医者が3人かかりきり、さらに滋養のあるものを食べさせますから、逞しい犬に育ち、どの犬と喧嘩しても負けることがありません。
そして「鴻池のクロ」は船場の犬の大将となるのでした。クロは船場の町々の顔役(犬)をまとめ、喧嘩の仲裁をする場面も描かれます。
ある日の事、1丁目と2丁目の犬が並んで歩いてると、向こうから毛の抜けた、いかにも病(やまい)もちの犬がトボトボとやってくる。見知らぬ犬が何の挨拶もなく街に入ってくるのは怪しからん!犬だけに腕力(ワンりょく)でいこうと、2匹は病犬(やまいいぬ)に吠えかけます。
2匹から吠えかけられた病犬がおそれをなして逃げ回るところ、ちょうど街をぶらついていたクロの目に入ります。
「おい、おい何しとんねん」
「あ、鴻池の大将」(2匹の犬)」
「大将やないで、見りゃ病もちと違うか、こんな病気の犬を追いかけてどうすんねん」
と間に入って事情を問うクロ。2匹が「挨拶せずに通ったさかい、おどしてやろうと」というので、今度は病犬に諭します。
「お前もお前や、他所の土地へ来たら、ちょっと挨拶して通ったらどうや」
「えらいすいません、危ないところ助けていただいて・・」
「お前、どっから来てん?」
この後、病犬の事情が語られますが、続きは次回に。