おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

あっち行け、そっち行け、鴻池12

風邪などのときに「アルコール消毒や」などと冗談をいいながら飲酒するのを見かけます。(私本人も経験者ですが)この効果のほどは期待できないとはいえ、アルコールに消毒効果があるのはコロナ禍を経験してきた私達のよく知るところです。
原酒のアルコール度数は20度近くにも達するので、細菌は増殖しにくい(死滅はしないまでも)状態なのですが、その状態で増殖する細菌が「火落ち菌」です。乳酸菌の一種で、日本酒のような環境を好んで増殖します。増殖によって旨味が増せば言う事無しですが、白く濁って酸っぱくなり、香りも損なわれてしまうのです。乳酸菌の一種、ということからも変化の状況は想像がつきますね。

大桶の中で記念撮影ができます(白鹿記念酒造博物館)

今でこそ酒の貯蔵にはホーローや金属のタンクを使用しますが、これまでの写真でもわかる通り、当時の貯蔵は木桶です。洗浄で落としきれなかった菌が酒の中で増殖すると「火落ち」「腐造」となって大桶の中身はもちろん、その年の新酒すべてが出荷できなくなることも。そうなると蔵としては大損害、世間的な評判も落ちると廃業せざるを得ない状況にもなってしまいます。
この酒造りの天敵ともいえる細菌は、高温の環境では生きられない性質があり「火落ち」=火で落ちるの名はそこから由来しているわけですね。
そこで、出来上がった酒に対して行われるのが「火入れ」。酒に熱を加えて「火落ち菌」その他の細菌を死滅させる作業です。

火入れ前後の工程(白鹿記念酒造博物館パネル)

ここで比較するとわかりやすいのが牛乳の殺菌。牛乳の場合殺菌方法が「保持式により摂氏63度で30分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること」と法令で規定されています。
市販されている牛乳の9割が120~150℃で1~3秒加熱して殺菌する「超高温瞬間殺菌(UHT)」という方式を取っていますが、65℃程度で30分程度連続的に熱を加えて殺菌を行う「低温保持殺菌(LTLT)」などの方式も存在します。

日本酒の場合、熱燗にするイメージですが、あまり高温ですと、酒の風味が損なわれてしまうので、およそ60℃で10分から15分加熱する方式をとります。

火入れされた日本酒は囲い桶で貯蔵・熟成されたのち樽詰めされます。

こうして、日本酒は市場に出せる状態になります。鴻池家はこの日本酒から身代を大きくしていくのですが、その話は次回以降で。