おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

ラジオ・リスナーの嘆き6

このあたりの話は、半藤一利先生が、「日本のいちばん長い日」として発表され、映画化もされました。録音を終え、皇居の坂下門から出ようとした下村情報局総裁と大橋放送協会長、他放送協会職員らは反乱を起こした近衛歩兵により身柄を拘束され、守衛隊司令部の建物に監禁されてしまいます。

一方、宮中にも反乱軍の兵士が乱入、玉音放送録音盤を捜索し始めます。十五日午前三時過ぎまで兵士たちは録音盤を探しますが、見つけることができません。侍従の手で、皇后宮職(皇后の財産等を管理する)の事務官室の書類に紛れ込ませて隠していたのでした。皇后の事務方、ということで、反乱軍側にとっても捜索範囲の死角になったのかもしれません。

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当時の放送用マイクロフォン

また、内幸町にあった放送会館にも、十五日午前四時に、会館を占拠しようと反乱軍の一個中隊が現われました。反乱軍の代表、畑中少佐(2015年の映画では松坂桃李さんが演じています)は、会館にいた報道部副部長をピストルで脅し、決起の趣旨を放送させるよう求めます。

報道部副部長は「警戒警報、空襲警報が発令されている間は、放送は東部軍管区の管理下に置かれているため、軍の許可がないと放送はできない」と説明します。そのため、畑中少佐は東部軍に直接電話し話し合うこととなりました。この段階で反乱は鎮圧に向かっており、電話で説得を受けた畑中少佐は放送を諦め、午前六時ごろ放送会館を退去、午前十一時頃、二重橋と坂下門の間の芝生の上で自決しています。

午前十一時半過ぎ、皇后宮職事務官室に隠されていた録音盤は、宮内庁から運び出されました。前回書いたように録音は二回行われましたが、二度目の録音分を「正盤」、最初の録音を「副盤」と呼んでいます。「副盤」はいかにも正式な勅使らしく自動車で第一生命館の予備スタジオへ、「正盤」は粗末な袋に入れて木炭自動車で放送会館へ運ぶ、という念の入れようでした。

スタジオに運ばれた録音盤は、正午の放送を待ちます。正午の時報が鳴り、下村情報局長の言葉の後、玉音放送は始まりました。