おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

果てには茶碗~鴻池の粋2

本題に入る前に、「鴻池の犬」の演目はyoutubeで検索していただくと、笑福亭松喬(しょうふくてい しょきょう:先代・六代目・故人)師匠の公式チャンネルでご覧いただけます。このチャンネル、130本余りの高座がアップされていて(ご遺族の管理する公式チャネルです)、上方落語のお好きな方はぜひお楽しみください。

繁昌亭の高座も数多くアップされています

それでは前回の続きです。

主人の口から冷ややかにでてきた言葉は「こないだの話、へんがいにさしてもらいます」というものでした。当時の商人(あきんど)言葉なのでしょう、なんとなく「白紙にする」「お断りする」という意味は通じるのですが、今では使わない言葉です。検索してみると「変改」がヒットして①変え改めること、改変②約束を破ること、とあり、ここでは②の意味で使われているわけですね。

驚いて「何ぞ、お気に障りましたか?」と驚く男に、主人の言葉は続きます。(少し長くなりますが商人の心根をあらわすところなのでそのまま紹介します)

ああ、障りました、えら障りじゃ。私ゃな、この町内に古くから住んでおりますで、人さんにちょっと名前を言うていただいただけで、どなたでもご存じ、世話もさせていただいて、いささか信用というものもいただいております。今まで犬の子一匹、猫の子一匹、もろたこともあげたこともないが、ものには相場というもんがおます。

じゃこの一掴み、鰹節の一本も持ってお越しになったら、あぁどうぞどうぞと貰うていただきますが、こら何でおます?人さんが持ってきなはったものに値段をつけて悪いが、鰹節がひと箱に酒が三升、反物が二反ついておりますな。

商家の主人の矜持が表れたセリフです(写真は堺:山口家住宅)

あそこの家(うち)は拾うた犬で銭儲けをした、と言われたら、私ゃこの町内を大きな顔して歩かれしまへんで。

まぁ察するところ、おたくには医者に見離された病人かなんぞがあって、占い師かなんぞに観てもろたら「全身真っ黒い犬の生肝を煎じて飲ませたら治る」とかなんとか言われてお越しになったように思う。三日でも飼えば情が移ります。そんなむごたらしいことはさしとうないで、せっかくでおますが、これ持って帰っておくれやす。

商人にとっての大事は金儲けだけではない、と主人の正論は江戸っ子の啖呵と遜色なく響きます。

男はそれを聞いて慌てて身分を明かすのですが、この続きは次回に。