おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

若・伊之 至り

この不動堂の境内に「狸塚」がありました。この塚を見つけたとき、「これがあの噺に出てきた塚か!」と思い当たった落語があります。幕末から明治にかけて活躍した三遊亭圓朝(初代)が創った「お若伊之助」です。

「狸塚」 塚の左右に子狸の像が置かれています

古今亭志ん朝師の高座をCDで拝聴しましたが、一般的な「落し噺」とも「人情噺」とも異なる、独特の雰囲気の落語です。噺の筋は後でご紹介するとして、舞台が根岸で、最後に狸の塚を建てた、というような最後で、さげにオチのない構成でした。

youtubeで最後の部分を聞き直してみたところ、「根岸御行の松のほとり因果塚の由来の一席でございました」となっていて、「御行の松」の名前が出されています。

実際に境内の掲示板にも噺のあらすじが書かれていました。

「お若伊之助」のあらすじ

「伊之助がキムタクを混ぜた様ないい男であった」のところは「混ぜるって一人しか名前出してない!」と突っ込みたくなりますが、箇条書きに描くとこんな流れ。

日本橋石町の生薬屋「栄屋」の一人娘「お若」は十七歳で大変な美人

・そのお若が一中節を習いたいというので、頭の勝五郎の紹介で「菅野伊之助」(美男!)が師匠となって栄屋に通って稽古をつけてくれることになった

・二人は親密な中になってしまい、それに気づいた母親(栄屋の女将で、ちなみに父親は他界していて母子家庭)は勝五郎を呼んで相談

・「あの野郎、人の顔に泥塗りやがって」と激高する勝五郎に女将は「この25両を手切金として、今後一切近づかないと約束させておくれ」と言い渡す

・勝五郎は伊之助に言い含め、しぶしぶ金を受け取った伊之助は約束通り姿を消す

・一方のお若は江戸の町中から外れた根岸の里、御行の松近くで町道場を開いている叔父、高根晋斎の下に預けられる

・しかし、根岸の里での生活はつまらなく、お若の胸には伊之助への思いばかり

・一年ほどの日が過ぎたある日、庭をぼんやり眺めていると生垣の向こうに伊之助が立っていて、喜んだお若は手を取って部屋に引き入れる

・叔父や道場の弟子たちの目を盗んで逢瀬を重ねているうちに、お若のお腹が張り出してきた(つまり妊娠したわけですね)

狸塚と御行の松 全景

・高根晋斎もお若の身体の変化に気づき、ひそかにお若の様子を見張っていると、お若が伊之助を引き入れるのを目撃

・翌日、叔父晋斎は勝五郎を呼んで問いただし、それを聞いた勝五郎は「一度ならず二度までも俺の顔に泥を塗りやがって!」と両国にある伊之助の家に怒鳴り込む

・血相を変えた勝五郎に、「頭、しっかりしてください、昨晩私と頭は吉原で一緒だったじゃないですか」

ここで話がおかしくなってきます。伊之助にはアリバイがあって、根岸の里に行くことはできない、ということです。この続きは次回で。