おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

象する吉宗5

この時、清涼殿に設けられた「象舞台」で見学を行ったのは、中御門横町の他に皇太子の昭仁(てるひと)親王(後の桜町天皇)、関白や左右の大臣らそうそうたる面々でした。公家たちは感嘆の声を上げ、天皇も異国からはるばるやってきた象が自分の前で頭を下げるしぐさに感じ入ったのか、和歌を残しています。

時しあれば 人の国なる けたものも けふ九重に 見るがうれしき

機会があって(かねてから興味のあった)他国の獣=象を宮中で見ることができてとてもうれしく感じている

京都御苑 この広い道を象が歩く様、荘厳な感じだったでしょう・・

続いて象は同じ御苑内にある仙洞御所へ入りました。仙洞御所とは退位した天皇の御所を指し、この時期は中御門帝の祖父に当たる霊元法皇がおられました。ここで象は法皇にも拝謁しています。法皇の前で頭を深く下げた象は、居合わせた人々に感銘を与えたようで、先にご紹介した中御門天皇の和歌以外にも、霊元法皇や公卿達も象を見たことを歌に詠んでいます。

また、サツマイモの項で紹介した、青木昆陽の師匠にあたる伊藤東涯も象を見物したことを記録に残しています。さらに画家、伊藤若冲は、生涯にわたって象を描いた絵画を多数残していますが、写実的な画風で知られる若冲のこと、この時期に象をしっかり目に焼きつけたのではないでしょうか。

4月29日に京都を出発した一行は、草津までは東海道を進み、そこから先は中山道を通って行きましたが、この内陸ルートは山道の連続で、象にとっても大変な道のりだったようです。静岡県三ケ日の引佐峠(いなさとうげ)には、ここで象が音を上げた、という「象鳴き峠」の地名が残っているそうですし、箱根の山では数日間寝込んでしまったといいます。役人の介抱で回復した象が江戸に入ったのは5月25日のことでした。

江戸に入った象の話は次回で。