ライトが羽仁夫妻の学校設立の趣旨に大いに賛同したのには理由がありました。彼のおば二人もまた、アメリカでホームスクールという学校の運営に熱心であり、しかもその学校の校舎を若い時代のライトが設計していた、といういきさつがあったのです。
ところで、「婦人之友」というと「家計簿」を家庭に広めたことで知られます。考案者である羽仁もと子の言葉に、次のような言葉があります。
月々の生活費を『家計簿』によって、予算超過をする気づかいがないようにしていれば、決してけちけちすることはいりません。(中略)底にしまりがあって、豊かな心持ちで一家の経済をしていくことのできるのは、理想的の家計上手家政上手というものでしょう。
当然羽仁夫妻の頭の中には、学校の先行きのことを考えて建築予算を立てているはずですし、ライトもそのあたりのことをよくわかっていたと思います。
明日館といえば、正面の逆ホームベース型の窓が印象的ですが、ライトがこの窓に施した工夫を、「帝国ホテル建築物語」が絶妙な筆致で表現しています。
外観は、三角屋根の中央のホールが強く印象付けられる。屋根の下には、地面から屋根下まで至る五本の縦長窓が、外壁に切れ込みを入れたように並ぶ。ライトが得意とする窓の形だ。
普段のライトの設計なら、窓には幾何学模様のステンドグラスを用いる。だが価格を抑えるためにステンドグラスは避けた。
その代わり、焦げ茶色に塗装した細長い木片を、ステンドグラスの枠のように、窓枠から窓枠へと斜めに渡すことにした。それによって五本の縦長窓全体で、大きな幾何学模様を描き出すのだ。それぞれの板ガラスは変形にはなるが、大きな板ガラスを使わずに済む。その点でも価格を抑える工夫だった。
この窓の印象的な幾何学模様が、ステンドグラスの代替としてのイメージだったとは驚きでした。
自由学園明日館の話、続きます。