おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

逢い焚くて逢い焚くて6

15日の雨の夜半、寺(吉祥寺)の門を荒々しく叩かれます。寺中の僧侶が皆何事かと思って聞いてみると、長く患っていた米屋の主人が先ほど息を引き取り、今夜のうちに弔いを済ませたい、とのこと。

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正月十五日の雨の夜、吉祥寺の門が叩かれます

急なことではありましたが、寺中の僧が弔いのため出かけていきます。寺中の僧、というところは大げさなように思えますが、今とは違い、江戸時代の経済は藩の大きさを石高が示す時代ですから、米屋=小売業だけではなく米問屋、と考えた方がよく、きっと羽振りの良い大店だったのでしょう。

ともかくも夜の寺の中にはわずかな人を残すばかりとなり、新春の雷が鳴り響き、お七にとっても恐ろしいことだったでしょう。しかし、「吉三郎さまにお会いするには今夜をおいて他にはない」と客殿から抜け出していきます。台所で働く姥に教えられ、吉三郎の休む三畳間に忍んでいったのは八つ頃、今でいう午前2時ごろのことでした。

ともに居た小僧を言い含め、吉三郎と二人になり、そこで割りなき仲となったのでした。時に二人とも十六の同い年のことでした。

こうして深い仲となった二人でしたが、いつまでも避難先の吉祥寺に住んでいるわけにはいきません。ようやく八百屋の新宅が完成し、お七の一家は実家に戻ることになりました。吉三郎と離れて家に戻ったお七は、不安定な気持ちで毎日を暮らすことになります。次回に続きます。