おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

蘭学こと(ば)始め3

青木昆陽に学び、長崎で通詞から若干のオランダ語を学んだ良沢は、『ターヘル・アナトミア』を開きながら、聞き覚えた単語を披露します。「この部分はロングといって

肺のこと、こちらはハルトといって心臓・・・」皆、これまで中国漢方の人体図とは全く違っていることに驚き、好奇心を抑えつつ骨ヶ原へと連れ立って歩いていきます。

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小塚原回向院内の解体新書碑文

その日解剖された刑死者は、五十歳ぐらいの京都生まれの老婦で、青茶婆(あおちゃば)と呼ばれていた罪人でした。何の大罪を犯して死罪となったのかは「蘭学事始」には触れられていません。が、調べてみたところ、子供を貰い受けて養育費を受け取りながら、子供を何人も殺していたようです。

憎むべき犯罪者ですが、この日の解剖の対象となったことで、その存在は現在にまで語り継がれることになりました。

実際に解剖を行うのは、医師ではなく、刑場の死体処理をつかさどる職務の者が行います。その日も、九十歳にもなる老人が刃をふるい、臓器を切り分けて、実物を示しながら臓器の名前を挙げていきました。それらはことごとくオランダ書の図と一致します。

老人の言うには、「自分は若いころから何人も腑分けを行っていて、誰のお腹の中にも同じ場所に同じ臓器がある」「解剖の度に医師たちに内臓を示して見せたが、誰もこれやあれが何であるかを疑う者はいなかった」と。解剖が終わった後、刑場に野ざらしとなって転がる骨も観察したところ、これまた図と異なるところはありませんでした。

参加した医師たちはますます驚くばかりです。

良沢と玄白、順庵の三人が一緒に帰路につく際、興奮冷めやらぬ三人は、なんとかこのオランダ書を翻訳して読み解きたいものだ、と意見が一致し、さっそく翌日から良沢の自宅で『ターヘル・アナトミア』の翻訳に取り掛かるのですが・・

この話、次回以降に続きます。