おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

菊、菊、菊の谷だ~

前回ご紹介した「三本仕立て」を基本として、本数を増やす「五本仕立て」「七本仕立て」も、花の咲く位置まで考えて茎を誘導(「誘引」と呼んでいます)したり、花の形状・大きさを揃える技術の見せどころです。逆に一本の大菊で魅せる「一本仕立て」もありますが、主流はやはり三本。
「三本仕立て」を小型化したようなのが「ダルマ」と呼ばれる仕立てです。菊背丈が伸びるのを防ぐ(阻害する)「矮化剤」という薬剤を使用します。阻害するのは背丈だけで、花については大輪の花が咲くので、まさに「ダルマ」のように見えます。矮化剤を使った菊の一本仕立ては「福助」といいます。「ダルマ」といい「福助」といい、なかなかうまいネーミングですね。ちなみに「ダルマ」は草丈を65cm以下に、「福助」は45cm以下に抑えて作ります。

「ダルマ」仕立ての菊

ここまでは「大菊」の仕立てをご紹介してきましたが、「小菊」「中菊」にも仕立てがあります。代表的なのが「懸崖作り」といわれるもの。元々はお寺のお堂などを崖や山の斜面にへばりつくように建てる方法のことをこのように呼んでいます。京都清水寺がその代表で、「清水の舞台」はまさに崖の上に建っています。
菊の「懸崖作り」は、渓谷の断崖から垂れ下がった大木や滝を模した仕立て方です。小菊の株を斜め上方に伸びるよう誘引しながら、無数の小枝を紡錘形の枝棚に揃え、一斉に花を咲かせます。

懸崖作り(小岩善養寺菊祭り)

「紡錘」とは、糸をつむぐための道具で、アーモンドを縦軸で回転させたような形をしています。「菊祭り」で小菊の仕立てとしてよく見られます。一本の小菊から数百数千の花を一斉に枝棚表面の花を咲かせるのは、大輪の仕立て以上に根気と丹精が求められそうです。

「懸崖作り」だけでなく、小菊は誘引と形をそろえるように芽の先端を摘んでいく作業(「摘芯」といいます)を続けると、塔や動物などの形を作り出すことができます。そのもの「造形」といわれる仕立てですが、これについては次回ご紹介していきます。