おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

花は桜木、浪花節2

自ら「桜男」と名乗り、桜に一生を捧げた「笹部 新太郎(ささべ しんたろう)。この人物のことはこの博物館を訪れるまで知りませんでした。

wikipediaの冒頭部分は氏の事を次のように記しています。

日本の植物学者。東京帝国大学在学中から桜の研究を始め、特にサトザクラヤマザクラなどの日本古来種の保護育成に尽力し、「桜博士」といわれた。

「笹部桜」(ササベザクラ)岡本南公園

植物学者で東京帝国大学となると理系かと思いきや、法科大学政治学科だそうで、桜に関する研究はほぼ独学。卒業後一時的に犬養毅の秘書となるも、それを辞した後は京都向日市兵庫県宝塚市の土地(宝塚は「山」)で古来の桜の品種保存などに努めました。「ソメイヨシノだけが日本の桜ではない」と主張する笹部氏は、水上勉先生の「櫻守」のモデルになっています。(作中の名前は竹部庸太郎)

岡本南公園の桜

主人公の植木職人の目から笹部氏の人となりが語られるのですが、妻に迎えた女性(竹部が二人の仲を取り持ちます)への言葉で、

「先生は自分の財産をつこうて日本の桜を育ててはんのやな」

「まるで、桜にとり憑かれた人やで。世の中に桜の学者さんや、専門家は仰山いやはるけんど、先生のように、自分で接穂を伐って、自分で接ぎなさる人はすくない。」

さらにはソメイヨシノについて竹部は次のように語っています。

夙川公園の桜

これ(ソメイヨシノのこと)は日本の桜でも、いちばん堕落した品種で、こんな花は、昔の人はみなかったという。本当の日本の桜というものは、花だけでのものではなくて、朱のさした淡(うす)みどりの葉と共に咲く山桜、里桜だった。中略

竹部にいわせると足袋会社の足袋みたいなもので、苗木の寸法、数量をいえば、立ちどころに手に入る品だ。

だいいち、あれは、花ばっかりで気品に欠けますわ。ま、山桜が正絹やとすると染井はスフ()いうとこですな。土手に植えて、早うに咲かせて花見酒いうだけのものでしたら、都合のええ木ィどす。全国の九割を占めるあの染井をみて、これが日本の桜やと思われるとわたしは心外ですねや。

葉と一緒に咲くところに桜の良さがあり、花ばかりが咲き、個性のない染井吉野などは花見には良くても、鑑賞するには安っぽい、という意味でしょうか。(ちなみに「スフ」とは合成繊維、レーヨンのこと)

随分な言われようですが、次回は笹部氏の事績について触れていきます。