おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

桜馬鹿~君よずっと幸せに3

笹部さんは自らの山林から苗木を移植や、老樹の世話を行うことはあっても、これほどの樹の移植の経験はありません。折しも笹部さん自身が京都向日町に持っていた桜の苗圃(びょうほ:苗木を育てる畑)を名神高速道路建設用の砂採取地として奪われ(回買い上げられ、替地も用意されましたが、桜の生育には不向きな土地)心を痛めている最中の依頼事でした。

向日町の苗圃は消滅しましたが、地元の人々の協力で2013年復興を果たしました

桜の園案内板 現在20種80本の桜が植栽されています

「【桜❵を含むことわざ」を検索すると、「桜伐る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」ということわざが挙がってきます。梅を育てるならこまめに剪定する必要がありますが、一方桜は外傷に弱い性質をもち、折れたり伐られたりした傷口から腐ってしまうので剪定するのは愚の骨頂、という意味です。

白妙(「桜の園」にて) 東京荒川堤から移植されたものだそう

移植を依頼された桜は高さ30mはあろうかというもので、目方も30~40トンに達すると予想されました。(実際には42トンありました)

技術の発達した現在ならともかく、昭和三十年代にその大きさの樹を運ぶにはどうするか。しかも傷つけてしまうと老木に取り返しのつかないダメージを与えることになるでしょう。どんな専門家も「無理だろう」と判断したのはそこでした。

小説「櫻守」では、主人公の植木屋弥吉と先輩の喜七がこのことについて語る場面が描かれます。(作中で笹部先生、高碕元総裁は芹崎となっています)

「芹崎さんもえらい人やが、それをやってみまひょかと、ひきうけはった先生もえらいな。どっちも桜にいのち賭けてはるわ」

「・・・・・・・・?」

「けど、それが成功するかどうか、常識では九分九厘まで枯れることがわかってる移植やおへんか。賭けも勝つ見込みがあっての度胸どっしゃろ。喜七はん」

松月(「桜の園」にて) こちらも荒川堤からの移植のようです

「負けるとわかった勝負に出てみるのが賭というもんや。けど弥吉ィ。こら、うわついた賭やないで。賭でそんな移植はでけんわ。先生が今日、世の学者や役人と喧嘩してまで、全財産をつこて研究してきやはった。桜に関する一切の知識を・・・この際に全部ぶちこんでみよ思わはったんや・・・それにちがいないで。まぁいうてみたら、職人の意気地や」

これまでの桜人生を賭けて移植に向き合う笹部に、手足となってくれる職人が紹介されます。その続きは次回で。