おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

ガキの他界やあらへんで4

乳を与えるのにも直接眼にしたり直接抱くことさえできないわけですから、乳児と添い寝などはもってのほか。お目見以下の御乳持のことを大奥の身分の高い女中たちは見下していたようです。しかも育児の経験のある御乳持に対し、大奥勤めの女中は子供を産み育てた経験がありません。大奥の中の「身分の壁」はその中で育つ子女にとっても最悪の環境だったのです。

江戸城内の「身分の壁」が育児にとっても障壁となっていました

こうした乳母=御乳持の選考基準を変更したのが、目付の矢部定令(やべ さだのり)でした。なかなか成り手がなく慢性的な人手不足への対策を兼ねて、旗本の妻女まで採用範囲を拡げました。矢部定令は、この三十数年後に遠山金四郎と共に江戸町奉行を務める矢部定謙(さだかね)の父親にあたります。

その中で旗本森山孝盛(もりやま たかもり)の娘もその役目に選ばれ、本人も夫も出仕を渋ったものの、父孝盛が二人を説得し勤めに出たそうです。ちなみに森山は火付盗賊改(ひつけとうぞくあらため)として鬼平こと長谷川平蔵の後任を務めました。

羽生PAの「鬼平江戸処」 この時代の江戸の街並みを再現しています

旗本の妻女は「御目見」にあたるので、乳を与えるのにも乳児の抱き役や覆面も不要です。添い寝も可能となり、育児環境は大幅に改善されました。ただ採用範囲を広げたものの応募はそれほど増えず、人手不足はなかなか改善はされなかったようです。そのため、監視役である目付やその周辺から任命・採用したのですが、これにより大奥の内情を知るという利得(?)ももたらされました。

「遊王 徳川家斉」では「医学の進歩や栄養の改良、さらには乳母の生活や勤務の環境の変化などの成果だったかもしれないが、御乳持が『格上げ』されてから早死にする割合が減っているのも数字のの上では事実なのだ」と述べています。

それにしても「大奥」の仲間由紀恵さん演じる一橋治済にはぞっとする迫力がありましたね。もう少し将軍家斉の話が続きます。