おっさんの街歩き(忠敬に憧れて)

首都圏周辺の見て歩きや気になった本やドラマなどについて語ります

「舟を編む」とヅーフと日葡辞書3

ズーフ・ハルマの筆写ということでは、大坂の適塾の話が有名です。前々回写真も載せましたが、2階にある3畳ほどの小部屋が通称「ズーフ部屋」と呼ばれる部屋で、塾生たちがこの部屋にある一組の辞書を自身のものとするために書き写したのです。(それ以外に他から頼まれて筆者し、代金を受け取る「アルバイト」もあり、良い収入源となっていたようです)

ズーフ部屋 別角度から

「一組」と書いたのは、この辞書が一冊ではなく分冊形式だったから。wikipediaによると約50,000語を収録し、全58巻だったといいます。アルファベット27文字(オランダ語には26文字に加え「IJ」という二重音字が存在します)の倍以上の冊数がありました。

筆写する塾生たちが「俺のKはどこだ?」とか言い合ったかもしれない、と想像すると可笑しいですね。

さて「舟を編む」の第6話では、「紙の辞書は必要なのか」という観点でも話が進んでいました。個人的に印象に残ったのが、辞書編集部の嘱託社員の荒木さん(演:岩松了さん)のセリフです。

「紙の辞書なんて陳腐化するものの代表かも知れない~でもな、紙の辞書に刻み込まれた情報は時代時代の記録でもあるんだ、価値があるんだよ!」

「人間が、その歴史の中で、いつ、何を手放し、いつ、何を獲得したのか、紙の辞書にはね、その記録が詰まってる」

このくだりで「日葡辞書」のことを思い浮かべました。「日葡」とは日本とポルトガルを指し、文字通り日本語→ポルトガル語の辞書です。といっても日本人が作ったというより、日本人の協力を得たイエズス会の宣教師たちが1603年頃に長崎で発行しました。

堺駅前 南蛮橋上の南蛮人の像(アルミ鋳物製だそうで)

約32,000の日本語の「見出し」に対してポルトガル語の語釈を加えています。キリスト教布教のために作られましたが、御存じの通り、その後日本ではキリスト教は禁制となり弾圧されました。そのため世界に現存するものはたったの4冊。

なぜ「日葡辞書」を思い浮かべたかというと、この辞書によって戦国時代の日本語とその発音がわかるからなのです。ドラマで「恋愛」の語釈が出てきましたが、戦国時代にも「恋(こい)」という言葉はあり、「男女間の情欲的で淫らなもの」として解釈が示されています。神の「愛(アガペー)」に対しての「恋(エロース)」といったところでしょうか。また当時の日本で普通にあった「男色(なんしょく)」については「罪悪に関わるもの」とまで書かれています。

高山右近像(カトリック高槻教会)

数百年後、現在の辞書が発見され、「当時はこんな言葉があったのか」「こんな意味で使われていたのか」などということがあるかも、と思うと辞書をめくるのも楽しく感じられます。

「言葉」を大切にしたこのドラマもあと3回。「恋愛」語釈はどうなるのか、「星の王子さま」がどう絡んでくるか、など目が離せません。

舟を編む」については以上です。次回からは元の「鴻池の犬」の話に戻ります。